高級 賃貸マンションを復旧させるには?
私は信州の山里で生まれ育ったから、冬の寒さについては身にしみて知っている。
水気のあるものはマイナス十数度の低温によって、凍ってしまうから、野菜も酒も、台所の床下の室(簡単な地下室)に納めて越冬させていた。
室を使わなくなったのは冷蔵庫が登場してからで、入れておけば玉子も牛乳ビンも割れないし、野菜もコチコチにならずにすむ。
冷蔵庫が本当にありがたいのは寒地なのである。
信州だけではなくて日本中の家の中が昔は寒かった。
どうしてかというと、家自体の防寒対策がなされていなかったからだ。
まったくなされていなかった。
厳冬の地でも、寒風を防ぐのはヘラヘラの雨戸とベラベラの障子だけ。
それもスキ間だらけ。
それ以上に問題なのは床で、板敷きや畳のスキ間から床下を吹き抜ける風の冷気がしのび上がってくる。
下から伝わってくる寒さくらいキッイものはない。
家の作りに防寒性が乏しいうえに、部屋を暖める装置にも欠けていた。
暖房という考えが日本にはなかったのだ。
というと、イロリやコタツや火鉢はどうなんだ、と反論があるかもしれないが、残念ながらあれは暖房とはいえない。
暖房とは、房(部屋)を暖める意味で、イロリやコタツや火鉢で部屋の空気全体を暖めるわけにはいかない。
イロリは体の前半分、コタツは腰から下、火鉢は手先だけ。
エライ人は何か庶民の知らない手を使っていたんじゃないか、という疑問もあろうかと思うが、私の知るかぎり、寒さの前で日本人は平等だった。
明治天皇は、厳冬期のみ火鉢を三つに増やしただけ。
元総理の細川護照さんの御尊父の細川議員氏に、大正期の細川侯爵家の日常生活について聞き取りをしたことがあるが、朝になると、熊本弁しかしゃべらない使用人が来て雨戸を開け放ち、広い日本間に火鉢を一つ置いて去る。
障子の紙一枚と火鉢の炭を友として、日がな一日、耐えなければならなかったそうだ。
天皇といい熊本の大藩のお殿さまといい、どうも身分の高い人ほど、寒かったらしい。
彼らは、火鉢だけですまし、庶民のようにより効果的なイロリやコタツを使わなかった。
エライ人ほど寒い環境の家の住むなんてことは外国ではちょっと考えられないが、どうしてだろう。
天皇やお殿さまがイロリに当たったりコタツに入っていたんじゃサマにならないからか。
それが直接の原因ではないと思うが、そういう光景がサマにならないことは誰でも分かる。
日本の人なら誰でも分かるが、しかし、外国の人にこのことを分かってもらうのは至難のわざだ。
こう書いていると私も、どうしてエライ人とイロリ、コタツのイメージがつながらないのかについて以下に続けようとして、筆が止まってしまった。
一休み。
その間に、皆さんも考えておいてください。
イロリやコタツのルーツをたどると、まず草葺きに土間の民家にいたり、さらに遡ると縄文時代の竪穴式住居にたどり着く。
真ん中に炉があって、周囲に人のいる一室住宅。
厚い草葺きの屋根は防寒性に富み、スキマ風の入るような壁や板敷きもなく、土間は地温で〇度以下には下らない。
後の民家のガランドゥの大空間のイロリとちがい、竪穴式住居では密閉性の高い狭い空間の中央で火が燃えているのだから、部屋全体が暖かくなる。
縄文時代には暖房があったのだった。
しかし、やがて、南方系の高い床の形式が日本列島に入ってくる。
鉄や水稲耕作といったより進んだ文化とともに高床式住宅が入ってきた。
現在の考古学の知見によると、中国南部の揚子江(長江)流域から海を渡るか、朝鮮半島南部から来たと推測されている。
そうした南方起源の高床式の住まいは、日本の冬には、とりわけ冬の寒い地方には適さないにもかかわらず、上層階級に支持されるようになる。
竪穴式にくらべ高床式の方がより進んでいるとはいえないにもかかわらず、水稲耕作や鉄といった高度なものと組で入ってきたがゆえに、より進んでオシャレな形式と思われたのだった。
そして、イロリもコタツもない高床系が天皇をはじめとするエライさんの住まいとして定着し、発展し、天皇の寝殿造りや武家の書院造りを生み出してゆく。
一方、縄文時代にはじまる炉のある一室空間はというと、庶民の住形式として定着・発展し、やがてイロリとコタツの民家となる。
その過程で、上層階級にならって板敷きや通風のいい障子や雨戸を取り入れ、本来の暖房性能は失うけれど、さいわいイロリとコタツのおかげで、火鉢一つのエライさんにくらべればまだましな冬の日々を送ることができた。
以上のような長い長い歴史のなかで、かわいそうなことに、天皇やお殿さまはイロリやコタツとその風情が似合わなくなってしまったのである。
風情が似合わなくても、寒いものは寒い。
しかし、隣の朝鮮半島や中国東北地方のように、寒さで死ぬほどではないから、オンドル(朝鮮半島)やカン(中国)といった近隣で発達した床暖房の工夫を取り込むことなく、風情を優先してガマンし続けた。
現代人は、住まいは実用の器と考えがちだが、かつては体面と見栄の器としての性格の方が強かった。
武士は食わねど高楊子。
武士は冬でも一つ火鉢。
不合理ナ、と思われるかも知れないが、私はひそかに、住宅の本質はそっちにあると確信している。
どうしてかというと、衣食住の衣のことを考えたらいい。
なぜ、生活水準が高くなるほど、ファッションにこだわるのか。
実用性がひとまず満たされた後は、実用の奥に押し込められていた体面と見栄が噴出するのである。
エライさんたちが、暖かい家に住めるようになったのは、明治になって、洋館が導入されてからだ。
洋館は、かつての高床式と同様な事情でより進んでオシャレな形態と見なされたから、エライさんは体面と見栄を保ったまま堂々、そっちに移ることができた。
が、実態を言うと、洋館は作っても接客用で、相変わらず日本館に住み続ける例が多い。
明治、大正、昭和戦前を通し、大方の日本人は、エライ人は大寒、庶民は小寒、で過ごしたのである。
日本の住宅の部屋中が暖かくなるのは、戦後の高度経済成長期の石油ストーブの導入を待たなければならない。
閉じた部屋の中で輸入した石油の火を燃やすことによって、竪穴式住居の暖房水準を数千年ぶりに回復したのだった。
かように、現代日本の暖房の歴史は日が浅く、やれファンヒーターだパネルヒーターだ床暖房だソーラーだ、さあ高断熱高気密だ、いや自然のままにと、右往左往の暖房発展途上国なのである。
おそらく世界の古今の住宅で、現在の日本の住まいほど散らかってる例はないのではあるまいか。
玄関には下駄箱に入り切らない靴がいく足も連なり、下駄箱の上には、花びんやら額やらお土産やらが並ぶ。
一応体面を考える玄関でこうなのだから、家族専用の部屋は推して知るべしで、居間なんかテレビやオーディオといった電化製品は仕方ないとして、壁にはカレンダーやら予定表やら、飾り棚の上には捨てるわけにはいかない記念品や人形やら、本、パンフレットの類やら。
ピアノなんか何とかしてくれ。
物置台になってしまっている。
台所、洗面台と進むにつれ事態は切迫し、ほとんど立錐の余地もないまで、ビンやら器具やらがギッシリ。
世界の古今の住宅で、と私が自信を持って断言するには、理論的な裏付けがそれなりにある。
まず、発展途上国は、家は狭いが、それ以上に物品が少ない。
一方、先進国としての歴史の長い欧米は、物品も多いが、それ以上に家が広い。
いずれも、原理的に散らかりようがないのである。
ところがわが日本ときたら、欧米に負けず劣らず物品は多いのに、家は広くなく、収納スペースは少ない。
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